幼児教室PAL パル・クリエイション

   

パル便り

パルだより1月号 リトル/チャイルド

 10月に、”主体的な学び”の必要性について書きました。改めて読み返してみると、なぜ必要な
のかは力説していますが、旧態依然とした記憶重視の教育に代わる新しい学びをどのように手に
入れるかについては、追及できていませんでしたね。かといって、短絡的にそのような教育を取り
入れている学校を引っ張り出してきて紹介すればいい、というものでもないでしょう。そもそも
小さい子どもを収容するそのような施設は、なかなか該当するところがありません。既成の施設
を探すばかりが解決方法ではないと思います。主体的な学びを、私たちがどんな形で取り入れる
かを模索することが必要なのではないでしょうか。
そもそもこのコロナ禍で、子どもの生活はどのように変化したのでしよう。家にいる時間が長く
なったことが、以前より良い状態をもたらしたとは決して言えませんよね。大人だってこの状況
下でかなり疲弊していますから、以前のような生活を取り戻すべく気持ちを奮い立たせるのは、
なかなか難しいでしょう。コロナのせいばかりではないと思いますが、子どもたちのコミュニ
ケーション力が下がってきているということは無いでしょうか。人との関わりが希薄になってい
る今、子供たちは相手の気持ちを理解することが難しくなってはいないでしょうか。
先週、年長さんのクラスで「クラス別お話の絵」というテーマの授業をしました。私のクラス
は「ベッドの下にワニがいる」(イングリット・シューベルト作)という話を選びました。夜両親の
外出に置いてきぼりをされた少女と、ワニの国で悪さばかりして人間の国に送られてしまったワ
ニが一緒に一晩楽しく過ごす、という話なのですが、話を読んだあとに子どもたちに色々な質問
をしてみました。通常の年なら、”聞いた話に基づいた想像を頭の中で絵画場面に構築する”こと
を主眼とした授業を進めるのですが、上記のような観点から子ども達の情緒的な部分がどのよう
に育っているのかが気になり、登場人物になったつもりで考えてみるという課題をプラスしてみま
した。
         
問:どうして両親が出かける直前、少女は「ベッドの下にワニがいる!」と叫んだのか・・・
答:ベッドの下にワニがいたから・・・ 本当にワニがいたから・・・
問:ワニは人間の国に送られる時に、人間の言葉を話す力と体の大きさを自在に変える力を授け
  てもらったそうだけど、ワニが少女の前で小さくなって見せて「どうする?小さいままでいよ
  うか?」と言った時、少女は「元の大きさのままでいい」と言った。どうして ?
答:一緒に遊ぶのに、小さくては不便だから。
問:翌朝、パパが少女のベットの下に少女とワニが昨晩一緒に作った卵パックのワニの工作を
  発見した時、少女が何も説明せずに静かに微笑んでいたのは何故?
答:ワニと一緒に作ったといっても、信じて貰えないと思ったから 嘘つきだと思われるから

 本来子どもは、2歳から5歳の間に平均4万の質問をすると言われています。お子さんの疑問、
質問にはどのように対処していますか。子ども達は見通しを立てる力は弱いかも知れませんが、
関心を持ったことに粘り強く取り組む力は非常に高いはずです。上記の[答]は全て子どもの発言で
す。絵本の話を聞いたままをリピートして答えているのが分かります。本当にベッドの下にワニは
いた ?! この解釈がここで止まってしまうと、この話の面白さは十分に味わうことができないで
しょう。年中さんくらいまでは、登場人物の情緒を含んだ話にはついて来れない子どもが多いか
も知れません。筋を追うだけで楽しい話が向いています。「ちびくろさんぼ」もこの手です。
年中さんの「お話の絵」に使っています。そこから1年経った子ども達の情緒と情緒表現の言葉の
発達は進んだでしょうか。図書館や幼稚園などでの読み聞かせは、絵本の文章をそのまま読み下
し、あとは聞いた子ども達にまかせるという方法を取っています。ただお話を味わうという観点か
らはこれも正しいと思いますが、もう一方の使い方として情緒についてのディスカッションをする
ための材料にするというのはどうでしょう。一方的な解説にならないように、お互いの思ったこ
とを言葉にしてみましょう。子どもが思ったこと、親が感じたことそれぞれ話し合ってみます。親
からのアドバイスで深い理解に辿り着くこともあるでしょうし、子どものユニークな発想を引き
出せることもあるかと思います。絵本から受け取ることのできる擬似体験で、登場人物の心理を
知っていくことは、子どもにとって有効な学びとなるのではないでしょうか。続けていくうちに
(勿論公平なディスカッションでなければなりませんが)子どもが「僕はこう思う」という強いメッ
セージを発するようになるかも知れませんね。これこそ望ましい学びの入り口と言えるのではな
いでしょうか。くれぐれも大人の常識を押し付けるような説得調、正しい正しくないばかりを語
る道徳調の話し合いは避けてくださいね。お母さんもみずみずしい心で絵本を味わってみてくだ
さい。
 今回は年長さんに沿って書きましたが、育児は子どもが生まれた時から途切れなくずっと続い
ています。その時の年齢なりの言葉の理解や情緒の発達をずっと観察していってくださいね。そし
て子供の疑問には根気よく付き合ってあげてください。

授業のようすはこちらのフェイスブックよりごらんください。